東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)1875号 決定
申請人 橋本オイチ 外一名
被申請人 財団法人共立女子学園
一、主 文
申請人等の申請を却下する。
二、理 由
第一、申請の趣旨
被申請人が昭和二十五年四月三十日附をもつて申請人等に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。
第二、事実及び争点の要旨
被申請人は昭和二十五年四月二十二日に、被申請人の経営する共立女子大学の助教授たる申請人両名に対し、同月三十日附をもつて解雇する旨の意思表示をした。(この点は当事者間に争がない。)
申請人等の主張は、申請人はいずれも二十余年前より被申請学園に和裁担当の教員として奉職してきたものであるが、昭和二十四年五月同学園内に「共立女子学園職員組合」の結成せられるに当り、これが結成準備に参画して熱心に活動してその結成後も依然組合活動を続けてきたものであるところ、被申請人は、右職員組合の結成準備以来、その結成責任者や組合活動者に対し悪意をもち、その結果申請人等を解雇するに至つたのであつて、被申請人の挙げる後記解雇理由は何らの根拠なく、従つて右解雇は、組合結成及び正当な組合活動を理由とするものであり不当労働行為として無効であるというにある。
被申請人のこれに対する弁駁は、被申請学園の昭和二十五年度学制改革に伴い裁縫科、ことに申請人等を含む和裁部門において担当教員が過剰になつたが、申請人等は学園内の日常生活においてしばしば不明朗な言動をなし学園の秩序を害すると認められたのみならず、日常の振舞が横暴且つ圧倒的で同僚間の気受がよくなく、加うるに年令の関係(申請人Aは明治二十五年六月五日生、同Bは明治四十年六月十九日生)からいつても専門外の仕事に職場転換することが不可能であつたため、労働協約第三十四条第六号所定の「已むを得ない事由が生じた」場合に該当するものとして申請人等を解雇したのであつて決して申請人等の組合活動を理由とするものではない、というにある。
第三、当裁判所の判断
一、申請人等を含む被申請学園の職員が昭和二十四年五月共立女子学園職員組合の結成準備をなしつつあつた際(同月九日第一囘、同月十三日第二囘結成準備委員会、同月二十日組合結成)、被申請学園は右組合設立趣意書の作成者であり且つ発起人であつた元職員dを突如として解雇したこと、及びその頃被申請学園の代表者で共立女子専門学校の校長であつた鳩山薫は右組合設立趣意書の賛成者名簿の筆頭にたまたま署名した申請人Aに対し最初に署名した理由を追求し、その後まもなく同人を学園の商議員に推薦したい旨申入れたが態度保留のまま拒否されたこと、同月二十七日頃労働協約締結の交渉中被申請人は当時組合員たるf、a、e、申請人A等に対し右同様商議員に推薦したい旨申入れたが前同様態度保留のまま受容れられなかつたこと、同年十月中職員組合が被申請人に対し労働協約が成立しない限り組合としては同月八、九日開催予定の学園のバザーに協力できない旨申入れ強硬に協約の締結を迫つた際、鳩山薫は専門学校及び大学の女子職員(多くは被申請学園出身の職員)に対しバザーの中止は状勢上不可能であり、そのためには一時組合を脱退してこれに協力せられたい旨申入れたのに対して申請人Bは組合を脱退してバザーに協力することはできない旨同職員等の決議を文書をもつて答え、これにより協約の急速締結をみるに至つたこと、前記dが東京都労働委員会に旧労働組合法第十一条違反として提訴中、昭和二十四年六月頃申請人B、a、b、の三名はd罷免の直前たる同年五月十一日の専門学校主任会議において鳩山が組合設立の発起人を追求確認した顛末を記載した証明書を作成し右会議に列席した主任の署名捺印を求めてこれを証拠として提出したため有利な解決をみるに至つたこと、昭和二十五年三月二十日頃申請人両名が当時組合において交渉中の申請人等の本件解雇問題について鳩山を訪問した際、鳩山は同人等に対し、右主任会議の顛末書提出の件や、昭和二十四年十月の前記バザー開催につき右職員のとつた態度を甚だ遺憾とする旨を述べたこと等の事実が一応疏明せられる。
これらの事実は、被申請学園側が共立女子学園職員組合の結成及び申請人等の右のような組合活動について悪意をもつていたことを推測するに足るものといわねばならない。
二、しかしながら、被申請人は、本件解雇が申請人等の組合活動を理由とするものではなく、全く別個の理由によるものと主張するので、その根拠となる事実の存否と、右いずれが果して本件解雇の決定的原因となつたかを検討する。
(1) 被申請学園は昭和二十四年四月新制大学として発足した共立女子大学の外に、同大学附設別科共立女子短期大学、共立女子専門学校、同附設家庭生活科、共立女子高等学校、共立女子中学校等を経営しているが、右のうち大学附設別科共立女子専門学校、右附設家庭生活科は、昭和二十六年三月限り廃止せざるをえない事態になつた。そして大学、専門学校における和裁担当の教員数は昭和二十四年度においては教授、助教授、合せて八名(申請人両名を含む)助手六名であつたが、昭和二十五年度の右学園改革に伴い授業時間、受持生徒数は更に減少したため和裁教員の過剰を生ずるに至つた。(和裁科の専任教員が同年度において過剰となつた事実は申請人等もこれを争わない。)もつとも被申請学園全体の経営としては収支相償う状態であるが、右学制改革に即応して配置すべき和裁専任の教員は講師を含めて教授、助教授、合計八名、助手一名で足りそれ以上の定員を収容することは、授業時間受持生徒数の減少にかんがみ学校経営の経理面からみて無理であり、残余の和裁教員は専門外の職場に転換する外ない状況となつたこと、及び和裁から洋裁への転換は技術的に困難であるのみならず裁縫科以外の職場への転換も年令や専門的経験の多いもの程それだけ困難であることが疏明せられる。
(2) 次に申請人等の学園内における言動について判断する。
(イ) 申請人等が昭和二十四年十月八、九日開催の学園バザーにおいて学園当局の禁止を顧りみず許可なく統制品である純綿の委託販売をしたとの点は、同人等がバザーの委託販売主任として鳩山校長の紹介した業者の製品を販売したものであつて、統制品の販売禁止について、事前に被申請人側から特に厳禁を申渡したという疏明に乏しくその全責任を申請人両名に負わせるのは苛酷であるけれども、少くとも、委託販売主任として校長に対し、業者紹介の真意を確かめようとせず又その当否をたださなかつたことは、校長補佐について手落ちであつたと認めることができる。
(ロ) 昭和二十四年十一月十一日代々木苑の学園祭運動会において鳩山委員長に無断で売店を出し売上金の処置について不明朗であつたとの点については、申請人両名が委員長に無断で売店を出す許可を与えたことを認めるに足る疏明は十分でないが、売店を出した十河一三が申請人Aに対して売店許可の手続を問合した際、Aが鳩山委員長をさしおいて神宮外苑管理局の許可を受けるよう指示したことは一応これを認めうるのであつて、この点において鳩山委員長の存在を無視したものといわねばならない。又申請人Aは当日売店を出した杉原みよしから二千円、同じく十河一三から五千円をいずれも同学園職員のために寄附する趣旨で手交された事実は疏明されるが申請人等がこれを着服した事実はなく、その後二ケ月を経て、申請人Aから寄附の相談を受けた職員組合がその寄附の経緯について不明朗となることを避けるため、これを受領しないこととし、Aはその後それぞれ右業者杉原みよし、及び十河の代理人渡辺忠雄に返金したことを認めうる。しかし申請人Aは職員組合に正式に寄附の件をはかる前右金員のうち五千円をもつて化粧品を購入し申請人Bの援助をえて組合の販売品であるといつて学園内に販売し業者から寄附金を受領した後二ケ月を経て、はじめてその売上金を職員組合に寄附しようとしたことはその疏明十分である。このような申請人等の行為は、かかる趣旨の金銭の取扱いにおいて少くとも第三者をして不公正を疑わしめる素因となるものであつて、同僚間において不明朗独断の措置だといわれてもやむをえないものと認められる。
(ハ) 入学試験の採点に関してとかくの風評があつたとの点は、その風評の有無はともかくとして、かかる風評の根拠となる具体的事実を認めるに足る疏明はない。
(ニ) 申請人等が権限外のことについて常に口を出したり陰謀を企て私心を満足させようとする人柄であるとの点はこれを裏付ける具体的事実の疏明不十分であるが、申請人両名は組合活動上の意見の相違から孤立したというのでもなく、常に一般職員と離れて日常の行動を共にすることが多く年長者として年少の教員に対し、高圧的な態度を示し、同僚と協調して事を処する点において欠くるところがあつたため比較的多数の職員から嫌忌の眼をもつて見られていたことが疏明せられる。
三、以上の事実を綜合すれば、申請人等が前記のような組合活動をした点は鳩山理事の忌諱にふれたものと推測できるけれども、又他面同人等が残留している他の和裁担当教員と比較して、右の外にとりたてて挙げる程の活溌な組合活動をしたという疏明はないし、申請人等の前記認定のような言動及び学園内の不人気に徴すれば被申請学園が学制改革による過剰人員の整理に際し、申請人等をその候補者に選んだことは学園当局者としては不当とはいいえず、ことに申請人等の年令、地位等からみて、同人等の職場転換は困難なことが推測しえられるから本件解雇は申請人等としてはやむをえないものといわねばならない。すなわち本件解雇には一応前記の如き不当解雇意思の随伴することが窺われるが、右認定の事情に照せば本件解雇の決定的原因は申請人等の組合活動よりむしろ同人等の平素の言動その他に由来するものであることを認めるに難くない。従つて本件については不当労働行為は成立しない。
右の次第であるから申請人等の本件申請は失当として却下するのを相当と認め主文の通り決定する。
(裁判官 古山宏 中島一郎 緒方節郎)